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イイムロがいく おしかけ職場探訪Vol.9[廣政あやさん 第3話]

こまつやを開業したときは妊娠8ヶ月。自分のお店と言えど子供が小さいうちは仕事にどっぷり浸かれずにいました。それでも人生のなかでバリバリ働ける時期の後半に入り、もっとワクワクできる仕事がしたい、今が変わりどきだと感じているそうです。Biotope紙面では紹介しきれなかったロングインタビュー、Web版として全3回に分けて公開です。

廣政 あやさん
長野市出身。進学した京都の大学では日常の暮らしに欠かせない衣や住について学ぶ。卒業後は料理写真専門のスタジオ勤務を経て、ロングライフデザインをテーマに活動するD&DEPARTMENT大阪店のキッチンスタッフに。結婚を機に長野に戻り、実家を改装し夫婦でパスタと自然派ワインのお店・こまつやを開業。西之門町の青年部にも所属し、夕涼み会やこどもレストランなど地域活動にも主体的に関わる。小学2年生と中学2年生の姉妹の母。

第3話:思いっきり働けるときって今しかない

飯室(以下、飯):前回は、5年半働いたカフェを退職されたところまでを伺いました。夫婦の店を開業するにあたって、場所を長野市にするというのはすぐに決まったのですか?

あや(以下、あ):結婚するのをきっかけにしんちゃんを実家に連れてきたんだけれど、実家の建物はもう雑貨屋としては機能していなかったんだよね。それで「善光寺さんの隣のこんなにいい場所なのにもったいない。ここでお店をやらせてもらおう」っていう話になって。

飯:戻ってこられて、すぐに開業されたのですか?

あ:業者さんとの繋がりを作るために3年くらいはどこかの飲食店で働こうって思ってた。でも、しんちゃんは30歳過ぎてるし、ある程度経験もあったからちょうどいい仕事が決まらなくて。だからしんちゃんは昼間は郵便局でお歳暮のアルバイトしながら夜は居酒屋で働いて、私は縁のあったイタリアンのレストランで働かせてもらって。長野市に戻ってきてすぐはそんな生活だった。

飯:経験が邪魔をして採用されにくい。それはありそうですね。

あ:そう。周りの人からも、経験や場所があるんだからすぐに始めた方がいいよって言われて。それじゃあ、もう自分たちで始めようって決めたんだけれど、その1ヶ月後に妊娠がわかってね。

飯:それでも後戻りはされなかったんですよね。

あ:「どうしよう?」とはなったけど、翌年が善光寺さんの御開帳だったし勢いで進めた部分もあったかな。開業したときは妊娠8か月。時期的に安静にしないといけないわけではないし、今ほど忙しくもなかったけれど、やっぱりお腹が張ったりとか、お腹が邪魔で狭いキッチンで自由に動けなかったりして。

飯:しかも産んでからは休まざるを得ないですよね。

あ:そうだね、長女のときはアルバイトスタッフに任せて2年間の育休をとった。保育園に入ってからは平日の昼間は私もお店に立つようになって。だけどやっぱり夜や土日は子供と過ごすことになるよね。

飯:そうですよね。

あ:次女が生まれる前に正社員を雇用したの。子育てもいっそう大変になるし、しんちゃんもお店の日々の営業で疲れがたまっていたので、平日の夜営業はやめることにして。

飯:予め、あやさんがいなくてもお店が回る体制を作ったわけですね。

あ:そう。それで産後1年で次女を保育園に預け始めたんだけれど、そのときはスタッフとしんちゃんでお店は回せちゃうわけでしょ。だからお店に私の居場所がない。曜日によっては昼に私が入らないと仕込みができなかったりもするんだけれど。

飯:もどかしいです。小規模の個人店では欠員がでると立ち行かなくなりますもんね。子供の発熱などで急に休む可能性が高いひとを一人工(にんく)としてカウントできない。私も商売と子育てをしている身なので、痛いほどわかります…。

あ:なんかこう、お店に、ちゃんと、どっぷり浸かれていない…っていうか、なんか、 自分のお店なのに…っていう気持ちは今もずっとある。最初の頃を知らない人は、しんちゃんのお店なんだなって思ってるだろうね。

飯:あやさんは、それでどうされたんですか?

あ:じゃぁとりあえず私は融通の効く仕事を外で探すよって話になって。それで障害者就労支援施設の作業所で昼食の調理スタッフとして働くことになったの。有給もあるし、ボーナスもある。子供の参観日とか、熱出したので休みたいとか融通が利くので、すごくありがたい。良く言えば安定している

飯:良く言えば?

あ:安定はしているけれど、私にとっては刺激が少ない。モチベーションをあげづらいなって思っていて。ほんとうはもっと自分自身が成長できてワクワクする仕事がしたい。

飯:ワクワクする仕事がしたい。

あ:そう、こまつやに入ると新しい出会いも多くて毎回ワクワクする。おりえさん(飯室)が前に、「働く人生の後半戦に入ったから、やりたいことやった方がいいよなぁ」って話していたでしょ。体力的にも今ならまだ動けるしって。

飯:しましたね。

あ:私も今は変わりどきだなって、それをずっと考えていて。

飯:変わりどき?

あ:作業所の仕事はここで区切りをつけて、お店に入る時間をもうちょっと増やそうと思っていて。ちょうどスナック(ネオスナック・雲の幕間。こまつやの2号店として2023年7月に権堂にオープン)も始めたから、しんちゃんも前以上に負担が大きくなったのもあるし。こまつやはスタッフとしんちゃんの2人でギリギリ回せていたけど、私も入って3人で回したらテラス席を使ったりお弁当だってできるかもしれない。そうしたらもっと売上もあげられるだろうし。

飯:もう1名働き手がいることで余裕が生まれるので、新しく広がる世界がありそうですね。聞いていてもワクワクします。

あ:こまつやでは、私はこれまで思いっきりフライパンを振れる状況じゃなかった。でも自分の料理とかデザートも作りたいし、勉強もしたい。なんかこう、思いっきり働けるときって今しかないのかなって。そういう変わりどきかな。

飯:子育てや介護などで働き方を変えざるを得ないとき、我々はそれを受け入れつつも、自分らしく働ける糸口を模索しながら進んでゆきます。あやさんの働き方はそんな我々にひとつの例を示してくれました。さて、私も働く人生の後半戦をどう生きようか。あやさん、お話聞かせてくださりありがとうございました。

(おしまいです)

1166バックパッカーズ

飯室 織絵

兵庫県出身。2010年に長野市にてゲストハウス・1166バックパッカーズ開業。ガイドブックの情報ではものたりない旅人と地元のひとを緩やかに繋ぐパイプ役を目指す。日々旅人の話を聞かせてもらうなかで聞き・書きにも興味を持つ。

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