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イイムロがいく おしかけ職場探訪Vol.8[伊藤芙美さん 最終話]

自分らしく働くためには、他者からの承認ではなくまずは自分自身が満たされるものを理解することが大切。そうおっしゃる芙美さんに、ご自身の ”自分らしさ” についても尋ねてみました。Biotope紙面では紹介しきれなかったロングインタビュー、Web版として全3回に分けて公開です。

伊藤 芙美さん
愛知県西尾市出身。短大で保育士の資格を取得し、知的障がい児施設の入所部門に就職。その後はのちに現職の就労移行支援カランコエの母体になる一般社団法人いるかビレッジを仲間と立ち上げ、コミュニティの力で社会問題の予防や解消を目指す。途中、オーストラリアでパーマカルチャーや民間自然教育、インドでヨガを学び、2020年から長野市にてカランコエの管理者に。さまざまな障がいを抱え働くことが困難な人たちのサポートを行う。

最終話:愛をもって後から応援してゆくのが私らしい生き方

飯室(以下、飯):前回は、自分が病気になってまで真面目でいる必要はない、というお話を伺っていたところでした。真面目で責任感が強い人ほど鬱になりやすい、なんて聞きます。

芙美(以下、芙):例えばSNSで、”自分らしく働きましょう” なんてコピーで、フリーランスのデザイナーや動画編集者になるための広告が出てくることあるでしょう? でもこれこそが素敵な働き方なんだ、他人からフォローされないとダメなんだって、そこに執着して劣等感を覚えてしまう若者がいるかもしれない。

飯:そうですね、SNSで切り取られた他人の世界は時してとっても眩しいですし、パーソナライズ広告って自分の興味関心にガッチリ入り込んでくるので、インパクトも大きいです。世の中の人たちはこんな風に生きているんだ…って。

芙:でもまずは自分自身が満たされるものを理解することが大切。自分はこういうことに感動するとか、こういうことにワクワクするとかね。例えば、山の中ですごく楽しそうに自給自足の生活をやっている人や、絵を一心不乱に描いているアーティストに触れた時、私はぐっとくる。

飯:なるほど。

芙:工場で働いていて、それが自分のやりたい仕事ではなかったとしても、自分の働く理由が土日に家族で楽しく過ごすためなのであれば、すごくいいなって。この趣味を充実させるためとか、美味しいもの食べに行くためとか、そういう等身大の自己理解をしていることが自分らしく働くことに繋がる。自己理解できていれば、他人のSNS投稿やフォロワー数に左右されないで済む。

飯:他人からの承認ではなく、自己理解が重要。自己理解ができているからこそ、本当の意味で自分らしく働き、生きてゆくことができる。一足飛びではなく、階段を一段ずつ登ってゆくようなイメージを持ちました。ところで、芙美さんご自身は、どんな自己理解をされているんでしょう?

芙:初めてお給料をもらった二十歳の頃にね、広島の原爆ドームに行ったの。そこで子供のメッセージに、戦争を繰り返しませんからっていうような手紙があって。その時に、痛感した。伝えてゆく人生だなって。

飯:伝えてゆく?

芙:すごく愛のある家庭に育ったので、そういう愛を受け継いでゆく人生かなって。使命って言うとちょっと恥ずかしいけれど、それが私が人生でやることだっていう感覚になって。

飯:自分が受けとった愛のバトンを次に繋いでゆく。それが自分らしい生き方。

芙:今でもしっくりきているってことは、そういうことなんだろうね。人には優しくありたいし、一緒にいる人が笑顔になったら嬉しい。ここぞという時は応援したい。多分そういうことをしてるのが好きな性格。高校生の時に野球部のマネージャーをやっていたんだけれど、それは頑張ってる人を応援するのが好きだったから。こう、前に立って夢を見せる役割の人もいれば、私みたいに後から応援する役割の人もいるから。

飯:カランコエでの仕事にも重なっていますね。

芙:カランコエで通所者と関わるのは短い期間だけれど、その後の人生に少しでもいい影響があれば嬉しい。だから「あの時間がターニングポイントだったな」とか「あの時言ってくれたこの一言って心に残っているな」とか思ってもらえると、働く喜びを感じる。

飯:ずっと繋がっていますね。

芙:この先も同じことやってるんじゃないかな。いつか形や場所は変わるかもしれないけれど、子供や生きづらい人を相手に、教育のようなものは続けていると思う。それは、今の人生に納得がいってるのもある。あ、あと家族で放浪の旅もしたい。子供がいろいろわかるようになるのは小学校に上がってからかな。学校を休ませてね、アフリカとかも行きたい。

飯:働き方は時代のうつろいで変化してゆくんでしょうけれど、納得のゆく生き方ができるといいですね。自分自身はもちろん、自分がバトンを渡してゆく子供たちの世代も。芙美さん、ありがとうございました。

(おしまいです)

1166バックパッカーズ

飯室 織絵

兵庫県出身。2010年に長野市にてゲストハウス・1166バックパッカーズ開業。ガイドブックの情報ではものたりない旅人と地元のひとを緩やかに繋ぐパイプ役を目指す。日々旅人の話を聞かせてもらうなかで聞き・書きにも興味を持つ。

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