Column

イイムロがいく おしかけ職場探訪Vol.0[滝澤愛さん最終話]
2021.02.04

イイムロがいく おしかけ職場探訪Vol.0[滝澤愛さん最終話]

長野市南県町の小さな書店「ch.books」の店内にてカフェを営む滝澤愛さん。地元長野で高校生活を送った後は埼玉の大学へ進学。社会人生活を含み計8年を首都圏で暮らし、20代後半で長野にUターンします。

歳を重ねることで見えてきた地元の良さも、お店で味わう日々の喜びも、女子ならではの尽きない悩みも、包み隠さずまるっとお話しいただきました。

Biotope紙面では紹介しきれなかったロングインタビュー、Web版として全3回に分けて公開です。

「この仕事、世の中に必要なの?」


飯室:愛ちゃんは店舗での営業だけでなくイベントに出店されることも多いですよね。

愛:カフェを始めて2か月ほど経ったころに周りから「こんなイベントやるんだけど出てみない?」って声をかけてもらうようになって。基本的に私は受け身な性格なんだけれど、できる可能性があると思って誘ってくれたんだろうから「じゃあやってみようか」と露店営業の許可を取って。

飯室:志賀高原天空フェスでは月に見立てたレモン、そして星に見立てたマンゴーやパインを使って天空レモネードを作り、星空にまつわる本と共に出店されていました。高村光太郎の『智恵子抄』を題材にしたお芝居では詩集のなかに出てくるレモンやりんご、キャラメルを使い、チエコショーという温かいドリンクを(ショー / chaud は “温かい” という意味のフランス語)。出店されるイベントやお芝居に合わせて開発される特製ドリンクは、お客さんの期待をはるかに超え「こうくるか!」と楽しませてくれますね。依頼主もそこが楽しみで愛ちゃんに声をかけるのかもしれません。

愛:イベントへの出店依頼が増える一方で、出店したいカフェも増えてきてる。今は代わりはいくらでもいるから、例えば自分が一回断ってしまったら、その次は他のカフェが取って代わっちゃうだろうなって。そういう恐怖はすごくある。だからこそ、一回一回がすごく大事。その一回が次に繋がるっていうのをいつも感じてる。

飯室:自分でカフェを始めようと見積もりを取ってみては悩んだり、チャンネルブックスの前で市場調査されていたところからも見て取れますが、愛ちゃんは根っからの慎重派で、それに加えてとっても真面目だなと思うんです。

愛:うん、慎重。すごい慎重!よくわかってるなって思っちゃった。あと真面目はもう昔っから真面目で、「誰も見てなくとも自分が見てる」と思ってる。適当な事をしていたら自分がすごく後悔するんだよね。しかもアルバイトで働いていたころとは違って、今は自分しかいないからすべて自分の責任でしょ。そうね、そういう意味ではずっと緊張しているのかもしれない。

飯室:イベント出店はどんな気持ちで立ち向かいますか?

愛:まず準備にものすごく慎重になる。「搬入の時は車はどこに停められるの?」とか「駐車場まで何分かかるの?」とか。場所ごとに持って行くものも違うよね。電気や火が使えるかどうかや、水道までの距離は会場ごとに違うから、初めての場所はなるべく下見に行く。二人でやっていたら「設営しているから車の移動をお願い」「お水くんできてくれる?」と分担できる事も、一人ではそうはいかないから。

飯室:アウェーでの出店は起こりうるハプニングを予測しないといけないですね。
 

愛:イベント中もいつどう混むかわからないから、「空いている時間にコーヒー豆を挽いておかないとお待たせしちゃうな」とか考えて。あと天気や気温も。前に湖のほとりで出店した時に冷たいドリンクしか持って行かなかったら、夏なのに予想外に寒くて失敗した。そういう経験の積み重ねはあると思う。

飯室:愛ちゃんにとって「仕事」って何でしょう。

愛:うーん、気持ちの満足みたいな事かな。東京で働いていたころは仕事してお金もちゃんともらって生活してたけど、でも体力がついていかなかった。それでだんだん気持ちまでダメになったの。今だって将来の事を考えると不安でいっぱいで毎日辞めたいと思うけれど、それでも一人でも楽しそうに過ごしてくれるだけで毎日辞めたくないとも思う。

飯室:真理ですね、それは。「毎日辞めたいと思って、毎日辞めたくないと思う」ですか。

愛:震災も、台風も、コロナも、そういう事があると「カフェって何だろう」って思っちゃう。一番最初にお客さんが来なくなる場所なんじゃないかって。コロナの前まではイベント出店が半年先まで決まっていたけど、コロナがあって「こんなにイベントできないんだ…」「じゃあここ(店舗)でやるしかない。でも、今営業していてもいいの?」って、先行きが不安になる時期が何か月もあった。

飯室:極論、有事の際はカフェを自粛してもみんな生きてはいけるってことですかね。

愛:そうそう、お茶は家でも飲めるでしょって。だから「この仕事ってどうなんだろう?」「世の中に必要なの?」って思っちゃって。でもそういう時に来てくれるお客さんの言葉に救われたりしてね。

飯室:そこが気持ちの満足の部分ですね。お客の立場からしても、こうネガティブなニュースが多いと精神的にまいってしまいがちですが、そういう時に安心して立ち寄れる場所があると心が救われるものです。そんな場所をみんなが持っていれば、大きい話になるかもしれませんが自殺とかも減るような気がします。

愛:そうだよね。でも金銭的に生活が安定しなかったら気持ちも安定しないようにも思うから、生活の安定と気持ちの安定、そのバランスをうまくとっていきたいな。

飯室:愛ちゃん、今日はたくさんお話してくださり、ありがとうございました。

(おしまいです)

1166バックパッカーズ

飯室 織絵

兵庫県出身。2010年に長野市にてゲストハウス・1166バックパッカーズ開業。ガイドブックの情報ではものたりない旅人と地元のひとを緩やかに繋ぐパイプ役を目指す。日々旅人の話を聞かせてもらうなかで聞き・書きにも興味を持つ。

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