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イイムロがいく おしかけ職場探訪Vol.2[柏崎美恵さん第2話]

製薬会社勤務時は論文を読み漁り、薬剤師時代は薬を飲んでも治らない患者を目の当たりに。興味があることにはどんどん突っ込んで行く美恵さんは、なつめや開業前何を思っていたの? 身体や漢方にまつわる様々な疑問や不安を、丁寧なカウンセリングで応えていってくれる なつめや店主の美恵さんに、ゆっくりじっくりとお話しをうかがいました。Biotope紙面では紹介しきれなかったロングインタビュー、Web版として全3回に分けて公開です。

柏崎美恵
長野市出身。薬剤師、国際中医師。製薬会社、薬局などの勤務を経て、2011年 長野市桜枝町にて漢方とハーブのお店 なつめやを開業。店舗でのカウンセリング・漢方の処方だけでなく、食養生を大切にし、薬膳を取り入れたメニューのプロデュースや薬膳講座も行う。

第2話:『こんだけ薬飲んでも治んないじゃん!

飯室(以下、飯):薬学部を卒業して国家資格まで取ったけれど、カメラマンのアシスタントと雑貨屋のバイト生活。ご自身としても心に引っかかるものが生じてきたわけですか。

美恵さん(以下、美):それで松本市の製薬会社に入社して、医薬品の情報を管理するDIになりました。DIはいろんな文献を読んだり、ドクター用の資料を作ったり、すごく勉強しないといけない。なんでこんな卒業したてのペーペーがドクターの目の前で薬の説明しないといけないのって思いましたけど、それをやりましたね…。

飯:2年ほどでその製薬会社を離れるわけですが、どんな心境の変化があったのでしょう。

美:文献を読んでいても数字通りのことに本当になるの? って疑問が出てきたんです。

飯:数字通りのこと?

美:文献っていうのは、実験してこういう結果になりました、どれだけの効果がありました、というものじゃないですか。でもそれは理論であって、実態感がない。だから実践の場をちゃんと見たい。それで調剤薬局に転職したんです。

飯:調剤薬局では実際に患者さんの対応をするわけですもんね。

美:総合病院近くの薬局に勤務していたときは、いろんな科にまたがって罹っている人たちをたくさんみました。でも薬を飲んでもただ抑え込んでいるだけで、根本的には治っていない。みんな生き生きしていない。薬って何? って思い始めるきっかけになりました。

飯:美恵さんは漢方の薬局でも働いていたんですよね。漢方との出会いはどこにあったのでしょう。


美:大学時代に遡るんですが、近くに不思議なカフェがあったんです。名古屋のカオスな感じのところで、コテコテのインド料理ではなく、インドに行ってきた日本人がインドカレーを作りました、みたいな。そこのカレーが今まで自分が食べていたものとは違いました。
大学では生薬学、つまりスパイスの勉強もしていたんだけれど、このカレーはスパイスの塊。
カレーは薬だ!
みたいな感じになって(笑)。
その後、製薬会社で松本に住んでいたときに入った玄米菜食のお店でもカレーがかかっていて。カレーがヒントでした。
薬になるご飯…薬膳?! って。
で、よし中国行こうって。

飯:え、で中国行くんですか?

美:そう、行くのよ、北京に。薬膳というものがあったとして、それは一般家庭に取り入れられているのかとか、どういう風に町の中にあるのかっていうのをみたかった。

飯:実際に中国に行ってみて、生活のなかに薬膳は根付いていたんでしょうか。

美:なんか北京の油っぽい料理を食べていても全然薬膳とは感じないし、羊の肉のしゃぶしゃぶ山盛り食べてもう具合悪い…こんなの薬膳じゃない…みたいな感じだったけれど、でも向こうで体調を崩したときに、粥っていう文字が目に入って。
あ!これお粥屋だった!って。初めてお粥屋をまじまじとみた時に、すごいいろんな種類のお粥があるんですよ。で、お店の窓に、これは何にいいとかって全部書いてあるんです。
こういうことよね、薬膳って!って、
そこでわかった気がした。

飯:日本に戻ってこられて、じゃぁこれは薬膳だ!と思い漢方薬局に入ったわけですね

美:そうですね、働き出した漢方の薬局には中国人の中医師がいたので、実際の中国でのやり方、考え方を見て真似ることができました。お客さんと話しをして漢方を選ぶので、調剤薬局にいた時とはまた違う緊張感がありました。またひたすら勉強。すると中医師の理論がだんだんわかってくるんです。
漢方薬を飲むにあたっては食事など生活面での見直しも必要で、飲んでいくうちに食の傾向や生活のリズムも変化してきます。お客さんのそういった変化も感じられるのは漢方薬局ならでは。すごくやりがいがありました。

飯:その後、東京にある北京中医薬大学日本校(現・日本中医学院)へ通い出すんですね。それにしても美恵さんはずっと学ぶ欲がありますね。

美:そうですね、興味があることに突っ込んで行くことは好きです。北京中医薬大学へは月に2回、週末を利用して通うスタイルだったので、働きながら通いました。

飯:どんな方が通われていたんですか?

美:東大の大学院で遺伝子の勉強している女の子や、お医者さんや助産師さんもいました。北海道から飛行機使ってきていた方も。私は長野でヒーヒー行ってちゃだめだ!って思いましたね。

飯:そこで取得されたのが国際中医師の資格。これはどういう資格なのでしょう。

美:中国では西洋医学を専門とする西洋医師のほかに、漢方を専門とする医師の国家資格があり、それを中医師と言います。日本では資格としては薬剤師と変わらないんですが、きちんと漢方を勉強した人。あくまでも薬剤師です。

飯:中国の中医師に相当する知識を学んだ専門家、という具合なのですね。美恵さんのように独立開業されるときには一つの指針になりそうですが、この資格を取得後すぐに なつめやさんの開業に至ったのでしょうか。

美:実は長野市の知り合いのカフェで薬膳講座も始めていたんです。仕事と学校と薬膳講座。その3つを上手く並立させていました。卒業後すぐに独立は考えていなかったんですけれども、そのカフェが閉店することになって薬膳講座もなくなることに。どうしようかな、いい空き店舗があればやるんだけどな〜なんてことを、たまたま知り合いと飲食店で話していたんですよ。そうしたら、偶然にも空き店舗を仲介している不動産屋さんも店内で食事されていて…


(続きます)

1166バックパッカーズ

飯室 織絵

兵庫県出身。2010年に長野市にてゲストハウス・1166バックパッカーズ開業。ガイドブックの情報ではものたりない旅人と地元のひとを緩やかに繋ぐパイプ役を目指す。日々旅人の話を聞かせてもらうなかで聞き・書きにも興味を持つ。

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