Column

日々、描いたり泣いたり笑ったり
#3[わたしのこと、Biotopeとの出会い。後編]
2021.06.11

日々、描いたり泣いたり笑ったり
#3[わたしのこと、Biotopeとの出会い。後編]

緑の髪の女がやって来た!

「人に会いたくない、仕事したくない、暖かいところに逃げたい」という当初の私の国内逃亡の構想は、なぜか「知らん人に超会う、仕事する、寒い信州」という長野市でのワーキングホリデーという形になり、いよいよ出社日当日。私は長野県では一番歴史がある広告代理店「共立プラニング」でお世話になることになっていました。フリーになって時間が経っているし、ちゃんと会社員を装えるのか?ドキドキしながらの初出社です。

そんな私を出迎えてくれたエリコと共に、まずは各フロアにご挨拶周り。もともと長身で目立つ私だけど、なんか普段よりも視線を感じるな…。

「君、すごい髪色だね!」と声をかけられハッとしました。金髪はさすがにまずかろうと数週間前に黒に近いネイビーに染め直したのが、日が経って色が抜け緑色の髪になっていたのでした。私に向けられた好奇の視線は「緑の髪のデカい女が来たけど何者?」といったものだったのでしょう。

やっちまったか?と焦ったけど「社会人経験者だから、ある程度ひとりで仕事をしてもらいます。よろしくね!」と今後の説明をしてくれるエリコもまた、グレー色のおじさん達の中でパッと目を引く綺麗な色の服を身にまとい、「よかった、この人もここでは超違和感だわ。」とホッとさせてくれたのでした。

私に与えられたミッションは想像以上に多岐にわたりました。さまざまなイベントの事務局お手伝いに、SNS用のテキスト作成や写真撮影のための取材、「駒ヶ根にソースカツ丼食べに行こう」とお誘いされ喜んでいたら、それが動画撮影のリポーター役だと後から知らされたこととか。(ちなみにこちら「信州リゾートテレワーク 駒ヶ根」)

社員の方と同行する際は、長野の食や文化のこと、長野オリンピックでの広告代理店各社の奮闘ぶりなどを聞かせてもらい、私の好奇心は刺激されました。(特に、長野のお洒落スーパー『ツルヤ』の店内ツアーは最高に目がキラキラした。)

また、行く先々で目にした、積み上げられたままの台風による瓦礫や土砂の山、ある現場で出会った社会福祉協議会の方の被災者支援のお話は、「今ここで見知ったことは、アーティストとして何ができるだろう。」と考えるきっかけをいただくことにもなったのです。

ごま油、みりん、せんちゃん

仕事が終わり帰宅すると、お待ちかねの(?)せんちゃんとの時間です。

帰宅が遅くなりそうな日の朝に、ご飯だけ炊いておいてほしいと伝えると「あ〜。YouTube見て調べます!」との返答。不安だが何事も勉強…と帰宅してみると米は炊けておらず、炊飯ジャーの中には浸水中の米となぜかごま油が浮いていたり。(ごま油とみりんを入れると美味しく炊けるというレシピがサイトにあった。)

「タルト・タタン作りたい!」と夜中の23時にお菓子づくりを始めたり。(翌朝見ると失敗した残骸と、砂糖が床に散らばっていた。)

どんな反応が大人として正しいんや…とフリーズする私に、「へえ〜、彩さんって意外とすごい人だったんですね〜」(何かで私の経歴を知る機会があった)と言い放つ彼女。ヤロウ、舐めてやがる…と感情が乱高下する中、早朝にマンションのベランダから見た美しい山の朝焼けや街を覆い尽くす朝霧が、私の心を洗ってくれたのでした。

あ、もちろん仲良く一緒に出かけたりもしましたよ。栗の名産地・小布施や、温泉へ。姉というよりは完全な母親ポジションで、「お母さんって大変だなぁ…」という感情を味わったことは、またひとつ大人の階段を登らせてくれたことなのかも…しれません。

運命の人は、気付けば隣に

そういったグチやネタを「聞いてくださいよ!」と話すようになったのはエリコで、「ちょっと近寄りがたいお姉さん」から「適当に流しながら聞いてくれる、ありがたい隣人」になるには時間はかかりませんでした。

いつもお洒落な彼女は、ご主人のUターンをきっかけに3年前に東京から長野に移住した、元アパレルのマーケティングに精通したキャリアウーマンでした。「ははあ、通りで!」と思いながら、一緒にランチに出かけた際に話す「これからの野望」や、それに対して感想を話す時間がとても楽しかったのです。

「長野の働く女性がさ、ちょっと着飾って立ち寄れたり趣味を見つけたりできるサードプレイスがあったらいいと思わない?もっと自治体の有益な情報を受け取れるフリペがあったりさ〜。」

そう話す彼女の言葉ひとつひとつが、近い将来「Biotope」として形になり、私も携わることになるのですが、それを知るのはまだもう少し先のこと。

業務でさまざまな土地にお邪魔したり、せんちゃんやエリコたちと女子会をしたり、滞在中に出会った長野の人たちとお酒を酌み交わしたり…3週間余りの長野市でのワーホリは、毎日が新しい出来事の発見で、あっという間に過ぎて行きました。

寮母おかださん(真ん中後ろ)お世話になりました。の会。

スタート前のハプニングを不安がった私に、あのとき居酒屋で「ワーホリが終了する頃には、仲良しになってるよ。」と言った友人の予言は見事当たることになり、翌年1月には善光寺門前で個展を開催するなど、今でも長野市とは繋がりをいただいています。

自分が頭で想像できる未来なんていうのは本当にちっぽけなもので、知らない世界が怖くても飛び込んでみなきゃ、それがどう広がっていくかなんて誰にも分からない。 まさかあのときは、長野やエリコが私の人生を広げていく「運命の人」になるとは思ってもいなかったのですから。

あたしももらっていい?と、常連客におごらせてるママの図

[わたしのこと、Biotopeとの出会い。]完。 次回はどんなお話が始まるのかお楽しみに。

画家

関口 彩

画家。富山県出身在住。
会社員のかたわら絵画制作をはじめ、2017年より画業に専念する。 作品は、動植物や石など自然のものを独自の視点で切り取り、細やかな筆使いで描くのが特徴。 装画、パッケージなどのクライアントワークを手がける他、作品発表を各地で行う。

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