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イイムロがいく おしかけ職場探訪Vol.11[矢野叶羽さん 第3話]

Web版3話目では、対話について伺いました。対話は高校生がこの先に自分では解決できない問題にぶつかったときに解決の糸口になるかもしれない。一見非効率な対話の時間にどんな社会的価値があるのか。Biotope紙面では紹介しきれなかったロングインタビュー、Web版全3回の最終話です。

矢野 叶羽(やの かなう)さん

北海道函館市出身。2021年4月、長野県立大学グローバルマネジメント学部入学を機に初めて長野市へ。大学4年生の春からは同大学の先輩が起業した合同会社キキに在籍。学校や地域の枠組みを越えて長野市へ学習にくる高校、大学生の現地コーディネートを行う。インタビュー時に執筆中だった卒論のテーマは『コミュニティの対話と知識創造』。今もこの先も好きで興味を持ち続けそうなのは「まち」と「対話」。

第3話:対話は未知なる問いを解決する糸口になるかもしれない

飯室(以下、飯):今(インタビュー時 2024年1月現在)は卒論を執筆されているとのことなのですが、どんなテーマで書かれているんですか?

叶羽(以下、叶):コミュニティでの対話が何を生むかをテーマに書いています。

飯:対話、というのはどういうものなんでしょう。

叶:対話に関しては先行研究がたくさんあるんですが、私は価値観や背景、ちょっとした痛みのようなものも出てくるような、そういう ”楽しいだけじゃない部分” を話すことだと考えています。例えば大学生同士でカフェでお茶しながら、「最近どう?」なんてやりとりをするなかで、少し深く「どうしてあなたはそう思ったの?」など聞いていくと、なんだかやりたいことがポロポロと出てきたりします。私は「これがあなたの大切にしてることだと思ったよ」なんて返したり、その大切にしているであろうことをまちに繋げていったり。対話は言語のやりとりだけではなく、相づちや表情などいろんなものを受け取ったり発したりして行う相互のコミュニケーション。そういう ”状態” を表していると思っていて、だからひとりではなく、ふたり以上がそこにいるからこそ成り立つと思っています。

飯:安心して話せる聞き手がいるからこそ、話し手が話せる。そんな状況ですね。

叶:私は対話の時間を大切に思ってると同時に、対話そのものが好きなんです。言葉自体も好きだし、その人たちが話してる姿も好き。対話をしていくうちに表情がパッと変わったり、しゃべってるだけでも周りの人たちも何かに気付いていく、そんな変化を見ているのがおもしろいんです。

飯:卒論を書かなきゃならないからテーマを決めたというよりも本当に自分が考えたいテーマが卒論になった感じですね。

叶:そう、ちょうど1年ぐらい前、立ち止まって考えてみたことがあったんです。

飯:立ち止まって?

叶:対話の場がすごく楽しいんだけれど、対話にはどんな社会的価値があるんだろう、対話を続けていくと何が生まれるんだろう、と。そのときに、より多くの人に伝えるには卒論だと思い至った。卒論を通して、対話が社会的にどういう価値があるのかを自分の理解に落とし込んだり、自分がこれまで見てきた場がどういうものだったか言語化しようと思ったんです。

飯:今の時代、「生産性」「タイパ」「5分でわかる〜」みたいな効率性を重視する考え方で溢れていますが、対話はそれに逆行しているように思います。叶羽さんは、対話にはどんな社会的価値があると思われるんでしょう。

叶:そうですね、効率的に考えたら、対話はおそらく切り取られていってしまう時間だと思うんです。でもそれがないとやっぱり息苦しくなる。特に高校生にとっては、いつか未知に出会ったとき、対話を経験していないと太刀打ちできないだろうなと思うんです。

飯:未知に太刀打ちできない?

叶:高校生がこの先、自分では答えが出せない、調べても答えがない問いにぶつかって、それをどう処理したり抱えたりしていくか悩んだときに、対話がひとつの解決の糸口になるかもしれない。対話ができると、もしかしたらしんどさを抱えつつではあるかもしれないけれど、生きていけるんじゃないかと。

飯:実際に高校生はどんな風に対話を捉えているんでしょうね。

叶:高校生を対象にした約1年間の対話のプログラムに伴走者として関わっていたんですが、最後の発表のときに「私たちはこれからわからないこととかに出会ってしまうかもしれない。そのときに戦う武器みたいなものはまだ持っていないかもしれないけど、この1年で武器が何なのかを話し合えるようになったと思う」と教えてくれました。それを聞いて、「あ、私たちがやってることはそういうことなのかもしれないな」って思いました。だから、そういう対話が生まれるような場所や時間を作る、それをこれからも引き続きやっていくだろうなって思っています。

飯:これからの叶羽さんの人生のなかでも、対話がキーワードになっていくんでしょうね。私のような世代にとっても対話が生まれる場所は興味深いですし、叶羽さんが活動されているように高校生や大学生にも対話の時間がもっと開かれてゆくことを楽しみにしています。今回はありがとうございました。

1166バックパッカーズ

飯室 織絵

兵庫県出身。2010年に長野市にてゲストハウス・1166バックパッカーズ開業。ガイドブックの情報ではものたりない旅人と地元のひとを緩やかに繋ぐパイプ役を目指す。日々旅人の話を聞かせてもらうなかで聞き・書きにも興味を持つ。

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