Column

日々、描いたり泣いたり笑ったり
#6[ヒグチユウコさんと私]
2021.07.13

日々、描いたり泣いたり笑ったり
#6[ヒグチユウコさんと私]

「好き?」
と一言、Biotope編集長・エリコからのメッセージが届きました。
開封してみると添付写真がある。

GUCCIとのコラボなども記憶に新しい人気画家・ヒグチユウコさんの全国巡回展「CIRCUS」のチラシではありませんか。ええ?まさか長野で開催されるの?と驚いたのが先日のこと。いよいよ7月16日(金曜日)から上田市立美術館でスタート!

私は2年前に巡回スタートした東京展を、東京にいたのに見逃して「もう近くにくることはないかなあ」と残念に思っていたので「好き!行きましょー!!」とエリコに返信。とても楽しみです!

今回のタイトルは大胆に「ヒグチユウコさんと私」なんて付けてしまいましたが、面識があるわけではなく、ただの一ファン。だけど私が絵を描き始めたきっかけのひとつを下さった方で、展覧会のベストタイミングで書いてみようと思います。

絵を描くのがツライ私を救ってくれた人

私が本格的に絵を描き始めたのは30歳を過ぎたあたりから。それまではほとんど絵筆をとることはなく、描いたとしても友人の結婚式のウェルカムボードなどで年に1回描くかどうか。絵を描くことは得意だったし、絵描きになりたいという気持ちはあったけど、絵を描くことがツライ…ちょっと理解できない感覚かもしれませんが、楽しんで絵を描いていたわけではないんですよね。

どうにか楽しく、ラクして絵を描きたい!と試行錯誤していたときに出会ったのがヒグチユウコさんの作品でした。確か10年前くらいになるでしょうか、初めて作品を見たときは衝撃を受けました。ヒグチさんの絵にはよく猫が登場しますが、私も猫を飼っていて猫好き。だけど可愛い系やほっこり系は好きじゃないんだよな!という私の好みにドンピシャの、ちょっと毒があって物語がある、そしてとても緻密なタッチの作品に一気に惹かれました。

見たところ、ペンと水彩で描かれている作品は「ペンでも、こんな素晴らしい作品が描けるんだ…」と目からウロコでした。プロの絵って、絵の具で描くものだと思い込んでいたんですよね。鉛筆画などももちろんありますが、洋画、日本画といえば、まず紙やキャンバスと絵の具、筆を用意して、絵の具を溶いて絵を描く。そして片付けも筆やパレットを洗って、乾かして…という、絵を描くことを億劫がっている私にとっては、はっきり言ってめんどくさい以外の何物でもなかったのです。

ペンで絵を描いていいんだ!
当たり前じゃない、何で描いてもいいでしょ?と今なら言えますが、当時は思い込みゆえに動けなくなっていた私にとっては、救世主のようでした。

すぐさま、ヒグチさんが使っている画材を調べ、どうやって画家としての道を開拓してこられたのかを調べました。画材についてはある雑誌のインタビューがあって、ホルベイン社の「マクソンプロカラー」というイラストや製図用のペンを使っていることを発見。その画材を使う理由は「どこででも手に入れることができて、すぐに絵を描けるから」というような記事だったかと思いますが、「そんな動機でいいんだ…?!」と更に背中を押してもらったような気がしたのです。

影響を受けまくって描いた絵

独学の私にとっての「先生」

それからは、早速マクソンプロカラーを購入して絵を描き始めました。ペンの良さは、何と言ってもその手軽さ。デスクの上に数種類置き、気が向いたときにパッと絵が描けるのは、私が絵を描くリハビリになりました。

当時は今見れば完全にヒグチさんに影響された絵を描いていましたが、私にとっては、自分のオリジナリティを見つけるまでの大事な期間になりました。

愛猫まりを描いた絵

私がまだ10代の学生のときの話ですが、美術の先生が「好きだと思う絵は、自分の中にその要素があるから。真似をすることは悪いことではなくて、散々真似をした中からオリジナリティが出てくるものだ」と言っていた言葉を、ようやく実感を持って理解し始めることができたのです。

愛猫ゆきを描いた絵

今ではアクリル絵の具と筆で絵を描くというところに落ち着きましたが、最近は学生以来の油絵にも興味が向いてきています。この先も進化はし続けると思いますが、「絵を描くって、自由でいいんだ」という今の考えの始まりのひとつは、間違いなくヒグチユウコさんからいただいたものです。

私は独学ですが、たくさんの気づきは日々、様々な人や出来事からいただいているので、その全てが私にとっての「先生」なのです。

画家

関口 彩

画家。富山県出身在住。
会社員のかたわら絵画制作をはじめ、2017年より画業に専念する。 作品は、動植物や石など自然のものを独自の視点で切り取り、細やかな筆使いで描くのが特徴。 装画、パッケージなどのクライアントワークを手がける他、作品発表を各地で行う。

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