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イイムロがいく おしかけ職場探訪Vol.7[ながはり朱実さん 第2話]

仕事を楽しんでいる最中にわかった妊娠、出産に、「あれ…これ、仕事できないじゃん」と思ったながはりさん。人生のステージが変わる際、それまでの仕事をどうシフトチェンジしていったのか。Biotope紙面では紹介しきれなかったロングインタビュー、Web版として全3回に分けて公開です。

ながはり朱実さん
長野県中野市出身、長野市在住。保健室の先生になるため短大に通うも、実習中に血がダメなことに気づく。唯一の光となった保健だよりの作成がきっかけで、卒業後は広告制作会社に入社。2003年から「ながはり朱実制作室」主宰。活動の場はデザインやイラストだけでなく、コラムや漫画、雑貨や紙芝居制作など多岐に渡る。旦那さんの営む喫茶・sirafuには談話室「凡知っち」が併設され、ながはりさんの蔵書漫画の閲覧や、雑貨購入もできる。

第2話:楽しく後半を過ごせる方法を探したい

飯室(以下、飯):前回からの続きになりますが、ながはりさんはグラフィックデザインの世界に入ったときも、教育現場で教えるときも、なかに入り込んで身体を動かしながらやり方を学んでいく感じですね。

ながはり(以下、な):入っちゃうと、いろいろ足りないなって思うことがある。グラフィックデザインの世界に入ったときも、ほんとそれをめちゃくちゃ感じて。自分がやってきたことなんか何も通用しない。知らないことだらけだった。

飯:自分の持っているものでは、足りないとめちゃくちゃ感じる。そういうとき、心折れたりしないんですか?

な:うーん、そのときは若かったから、学びたい! って。自分で東京に行って観たいものを全部観てね、独学なんだけれど意識的ではあったと思う。それに職場にも恵まれたよね。

飯:学びたい! と意識的になれた原動力はどこにあったんでしょう。

な:「いい」って言われたいばっかり。第三者の目で観て、「いいね!」って言われたかった。ちょっとでも、人の気持ちに何か触れられたらいいなぁって。今やっている紙芝居とかパフォーマンスでも、「楽しかった」「面白かった」「また観たいね」って言ってもらいたい。すごくシンプルな話だよね。

飯:やりたいことと仕事が一致していて、ながはりさんの気持ちに嘘がないからこそ、そこに向かっていけたんだろうな、と聞いていました。

な:昔は「5時からは自分の時間」とかって、仕事の時間とプライベートの時間が切り離されている世の中だったけれど、今は ”働く” と ”生活する” っていうふたつが、ごっちゃになっているよね。働き方が変わってきている。

飯:働き方が変わってきている。ながはりさんとしては、どんな風に変わってきたと思われますか?

な:なんだろう。「生活のために身を削る」というのではなくなってきたなと思って、この10年くらいで。やり続けることを目標にする時期に入ってきたのかな。

飯:それは、ながはりさんにとって?

な:漫画家さんとかって、けっこう早死にされてたり、途中から視力がすごく落ちちゃうって聞くんだよね。そういう現実をみると、50歳を過ぎると残り時間をどう充実させるか考え始める。だから楽しく後半を過ごせる方法を探したい。今はそういう意識が強い。

飯:探したい…。探しているところ、という感じでしょうか。

な:がんばっている人に限って体を壊しやすいのは、自分の体調と付き合わずにやってきているからなのかもしれないなと思うようになって。私も、正直だんだん目も疲れてきたし、同じ形で作業するのがきつくなってきたのが40代で。だからもうパソコンを見ない仕事をしたいと思ってパフォーマンスを始めたんだよね。普通は身体を動かす仕事をだんだん減らしていくんじゃないの、とか言われるんだけれど。

飯:座りっぱなしのグラフィックデザインの仕事と、体を動かすパフォーマンスがあることで身体の調和が取れている。

な:あと、話していて思ったけれど、ひとつのことだけをできない性分なのかもしれない。ひとつだけだと不安になる。これがダメだったらもう終わりだって。精神的にも金銭的にも。今はグラフィックデザインの仕事があって、パフォーマンスや学校で教えるっていう仕事があって、あとここ(喫茶sirafu)の営業があって。

飯:それらを同時に動かしてゆく。

な:そう、動かしていけば…種を撒いておけば、実がつく日があるだろうから、とりあえず種を撒いておこうかなって。

飯:種を撒く、ですか。私も何か種を撒いておきたいです…。私は40代にしてまだ働き方を模索中ですが…。

な:50代になったってそうだよ! ゴールってないじゃない? 大きな企業に入ったひとたちだって、それは全然ゴールじゃないし。わからないよね。

飯:そういう考えると、例えばうちや、ながはりさんのご家庭のように、小さな舟に夫婦二人で乗るというのもよい?

な:小舟は自分でそこそこDIYできるけれど豪華客船は沈んだら終わりだよね。沈みかけていても気がつかない。沈む直前までずっと優雅な音楽が流れていたりね(笑)。そう思うと、身の丈を知りながら生きていけるっていうのは、楽しいなって。なんだかずっと学び続けていられるっていうか。

(続きます)

1166バックパッカーズ

飯室 織絵

兵庫県出身。2010年に長野市にてゲストハウス・1166バックパッカーズ開業。ガイドブックの情報ではものたりない旅人と地元のひとを緩やかに繋ぐパイプ役を目指す。日々旅人の話を聞かせてもらうなかで聞き・書きにも興味を持つ。

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