イイムロがいく おしかけ職場探訪Vol.11[矢野叶羽さん 第2話]
インタビュー時は卒論執筆中でしたが、この3月に晴れて長野県立大学を卒業した叶羽さん。卒業後の進路は在学中から在籍している合同会社キキへ。Web版2話目では、叶羽さんがキキに在籍することになった経緯や、社内でどんな役割を担っているのかを伺ってみました。Biotope紙面では紹介しきれなかったロングインタビュー、Web版として全3回の2話目の公開です。
矢野 叶羽(やの かなう)さん
北海道函館市出身。2021年4月、長野県立大学グローバルマネジメント学部入学を機に初めて長野市へ。大学4年生の春からは同大学の先輩が起業した合同会社キキに在籍。学校や地域の枠組みを越えて長野市へ学習にくる高校、大学生の現地コーディネートを行う。インタビュー時に執筆中だった卒論のテーマは『コミュニティの対話と知識創造』。今もこの先も好きで興味を持ち続けそうなのは「まち」と「対話」。
第2話:計画されすぎた旅ではなく、ふらふらできる余白を大事に
飯室(以下、飯):合同会社キキというのは、叶羽さんの先輩が長野県立大学在学中に創業した会社ですね。暮らしや学び、働くということをテーマに、長野県内でさまざまな事業を展開しています。
叶羽(以下、叶):そうですね。私はキキが登記された年に入学しました。その頃は参加者として、学生や若者が自分らしく働くためのキャリア作りを考える「リビングラボ」や、地域活動に興味がある若者たちの座談会「ついたち会」に関わっていました。
飯:どのタイミングで運営メンバーになってゆくのでしょう。
叶: 3年生の秋に事業計画書を作る授業があり、私は長野市で学びづくりを行えないかと考えていました。修学旅行などで長野に来ている学生たちに、長野の暮らしの良いところやコミュニティの良さを伝えられたらおもしろいんじゃないかと思っていて。そんなことをキキの創業者である先輩に話してみたところ、「ラーニングジャーニーとしてやってみない?」と言われて。それが運営に関わるきっかけになりました。

飯:ラーニングジャーニーでは、主に地域留学体験プログラムとして2泊3日で長野へやってくる高校・大学生たちの現地コーディネートを行うわけですよね。プログラムの一環で1166バックパッカーズに宿泊してくれることも多いですが、学生さんたちを見ているといい意味でのんびりしていて、我々の日常生活のなかにすっと溶け込んでいるような印象です。
叶:計画されすぎている旅ではなく、自分でまちを歩いて何かを感じてほしいと思っているんです。なので、ふらふらできる余白を大事にしてます。
飯:善光寺さんの仲見世を歩いていると修学旅行の学生さんとよくすれ違います。彼らはたぶん善光寺の参拝をしてその後の短い自由時間のなかで仲見世でお土産買って、それで次の場所へ移動しているようです。ラーニングジャーニーとはかなり時間の使い方が違いますね。
叶:そうですね、私も修学旅行生とすれ違うと心のなかで「いやいや、 もっとある!」って思います。もっと権堂や門前をゆっくり歩いて回ってほしい。
飯:それが、ラーニングジャーニーの「ふらふらできる余白」なんですね。
叶:元々は、自分が函館で行っていたような地域活動を今の高校生たちもやったらいいのにって思っていたんです。でも実際は受験や部活で忙しい。それでも何か越境するような体験が必要。じゃぁどうしたらいいんだろうと考えていて、それがラーニングジャーニーをコーディネートする際のアイデアになっています。
飯:高校生や大学生を受け入れる中で、叶羽さんは彼らにどんなふうになってほしいとか、何を持ち帰ってほしいと思っているんでしょう。
叶:ただ歩くだけではなくまちの編集者の話を聞きにいきます。他者の視点でまちを見る体験をしてもらいたい。
飯:まちの編集者ってどういう人たちのことでしょう。
叶:そうですね。これは定義するのが難しいんですが、場を作っていたり、イベントを開いたりしている人を考えています。そして、他者の視点でまちを見てみるだけでなく、自分なりのまちの見方を得ることも期待しています。まち歩きの後に感想を言い合ったり、長野と自分が住んでる町を比べて話してみたりします。
飯:参加者それぞれのまちの見方を聞いてみて、叶羽さんのなかでも何か発見がありましたか?
叶:印象的なのは 昨年の6月に来た音楽が好きな学生が、 メロディー式の信号機など長野で聴いた音を写真に撮って表現していたんです。私が考えもしなかったまちの見方を獲得していて、「あ、そのまちの見方は知らなかったな。悔しい」って思いました。
飯:悔しい、なんですね。長野に来て、善光寺参拝とはまた違ったものを受け取ってもらえてる感じがします。
叶:ラーニングジャーニーが終わっても長野に再訪してくれる学生や、何度も長野のラーニングジャーニーに参加してくれる学生もいて嬉しいです。

飯:R-DEPOTの通りに面したガラスには、ラーニングジャーニーで参加した学生さんたちのアウトプットが展示されていますよね。私もいろんな視点をそこで楽しんでいます。次回は叶羽さんが興味を持っている対話にも触れてお話を伺っていきたいと思います。
(続きます)
1166バックパッカーズ
飯室 織絵
兵庫県出身。2010年に長野市にてゲストハウス・1166バックパッカーズ開業。ガイドブックの情報ではものたりない旅人と地元のひとを緩やかに繋ぐパイプ役を目指す。日々旅人の話を聞かせてもらうなかで聞き・書きにも興味を持つ。