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循環する社会を「土」から考える[合同会社nomタイアップ記事]

「土に還る」をコンセプトに、飯田市天龍峡を拠点に地域資源を活かした事業を展開する合同会社nomの折山尚美さん。彼女が「同志」として信頼を寄せるのが、イタリアと長野を拠点に食や循環型社会をテーマに活動する起業家・齋藤由佳子さんです。

BiotopeフリーペーパーVol.11では、折山さんと齋藤さんの対談を掲載。誌面では収まりきらなかったエピソードを、今回は特別にお届けします。

■プロフィール
折山尚美(おりやまなおみ) 
合同会社nom 代表社員
新潟県に生まれ南信州に移住。病院勤務ののち、ホリスティック医療スリランカ政府認定アーユルヴェーダインストラクター、プロフェッショナルアドバイザーオブハーブを取得。予防薬としても活用される薬草や野草など使った旅館を経営。 「土に還る」を事業の主体にし、地域資源の新しい活用提案や空き家・文化財の活用など、関係人口と地域を繋げ役を担っている。 合言葉は「ごはんだよー」。地域コミュニティや豊かさや幸福感を食事によって表現している。 その中から生まれる様々なアイデアで100年先まで描ける事業を展開する。

齋藤由佳子(さいとうゆかこ)
JIEN LLP 共同代表
イタリアピエモンテ在住。食文化教育ベンチャーGENを2014年ミラノで設立。シェフなど専門家向けのプログラムを日本各地で展開し、食を通じた地域づくりやESDアドバイザーをつとめる。2023年から長野市のOYAKI Farmなどを手掛けた建築家の遠野未来と生態系を再生するリワイルディングデザインを行うJIEN LLPを長野に設立し、土の再生イノベーションや食の教育の場づくりを国際的に広げていくことに取り組む。

「やっぱり『土』でいいんだ!」――土と向き合い続けた先に

―― おふたりは京都大学での特別講座のフィールドワークがきっかけで出会ったと聞きましたが、今の関係をどのようにとらえていますか?

折山さん:やっと出会えた人!まさに、同志ですね!

齋藤さん:そう、同志。友達ともちょっとまた違う関係ですよね。

折山さん:「土」についてこれだけ話ができる人っていなかったから、出会えて本当に嬉しかった!

―おふたりとも食のプロでありながら、折山さんは古民家再生・活用、齋藤さんは建築家の遠野未来氏と土の再生イノベーションと、ハード面にまつわる事業にも取り組んでいるという共通点がありますね。

折山さん:そうですね。そういう意味でも繋がったのはとっても奇遇でした!

―ところで、齋藤さんは折山さんの活動をどのようにとらえていますか?

齋藤さん:「グローバル」という言葉が広まって久しいですが、その結果として、どこへ行っても同じような景色が広がる、均一化された社会が生まれました。だからこそ、これから大切になるのは普遍的で本能的に求められるもの、つまり「ユニバーサル」なのではないかと思うんです。そう考えると、折山さんの取り組みって単に文化を伝えたいというわけではなく、もっと深くて本質的なことなんですよね。

折山さん:うん、そうですね。

齋藤さん:私も、もともとは食文化を事業のテーマにしてたけど、ふと「文化だけじゃないかも」って気がついて。本質に向かったときにたどり着いたのが「土」だったんです。だから、折山さんと「土」の話で意気投合できて、私もすごい自信をいただきました!

折山さん:それは嬉しい!

齋藤さん:あと、折山さんには新しい料理人像を感じました。折山さんの料理は、ただ美味しいものを作るだけじゃなくて、食を通じて「想い」を伝えようとしている。その一皿に、人を目覚めさせる力があるんです。まさに、「食の伝道師」だなと思います。

― それぞれ第一線の経営者として挑戦を重ねてきたからこそ、生まれた共鳴や気づきもあるのではないでしょうか。

齋藤さん:そう、やってきたことは全く違いますけどね。折山さんは、地域に深く根ざして、まるで地中深くに根を張るようなタイプ。

折山さん:うん、そうですね。

齋藤さん:私はどちらかというと、横のつながりを紡いでいくのが自分の役目なのかなと感じています。

折山さん:たしかに。私だけの視点じゃなくて、イタリアを拠点にする齋藤さんが海外視点で語ってくれるからこそ、より伝わることがあるんですよ。だからこそ、今日もお呼びさせていただきました(笑)

――  おふたりでイベントに登壇されたこともあったそうですね。

齋藤さん:はい。2024年10月に「里山LIFEアカデミー」というイベントでも一緒にお話しさせていただいて。

折山さん:私がテーマを「『山を食べる』にしたい」と提案したら、「マニアックすぎると集客が難しくなるかもしれませんね・・・」って心配されて。でも、開催してみたら、「神回だった!」って言ってもらえるぐらい、たくさんの参加申し込みをいただいて、とっても盛り上がったんです。

―では、けっこう反響を感じましたか?

折山さん:めちゃくちゃ感じました!

齋藤さん:「なんだ、土でいいんじゃない!」って自信になりましたよね。

折山さん:なんと「里山LIFEアカデミー」では、今年も私たちと「土」をテーマにしたイベントの開催が決定しました。しかも、第1回目の登壇者として呼んでいただけることになったんですよ。

齋藤さん:感度の高い方は見つけてくださるんですよね。本当にそういう共同体をそろそろ作らないといけないかも。「土の共同体」、作っちゃいません?

折山さん:まさに!そのうちこの共同体に入るのが憧れみたいになってくるような。それぐらいすごいものを作っていきたいですね!

▼イベントの様子はこちらのページをご覧ください!
なぜいま「土」なのか?世界と日本の地域に学ぶ、“足もと”にある豊かな生き方【vol.5イベントレポート】

「やらない理由を探すのは苦手」挑戦を重ねてたどり着いた道

――  そもそも折山さんが土にたどり着いたのはいつごろだったんですか?

折山さん:土に急激に惹きつけられたのは、40代のときですね。やっぱり大事なものって、自分の先祖だったり、祖先たちが守ってきたものだったりするんだなって気づいたんですよね。

――  そこに至るまでにはどんな経験や転機があったのでしょうか。

折山さん:結婚を機に飯田に移った後、アーユルヴェーダを学ぶためにスリランカに渡りました。そこから売上数億円規模の企業の一事業として古民家カフェの経営をやりはじめたんです。

大きな転機になったのはコロナ禍でした。カフェの営業がままならないなか、お店を愛してくれる人たちがどんどん集まって応援してくれたんです。それはつまり、「私たちには続ける価値がある」という証だと思いました。そして、経営していた5店舗はすべてコロナ禍を乗り越え、無事に残ることができました。

齋藤さん:コロナ禍は、ある意味で試金石だったのかもしれないね。

折山さん:そう、コロナ禍で本質的なものに目を向ける流れが加速した。大量生産・大量消費しなくてもいい状況になって、純粋な部分が残ったんですよ。例えば、つながりのある生産者さんの食材を使ってお弁当にして、その利益はみんなで均等に分配したんですよ。そういう循環が作れて、今まで敵対していた飲食店とも手を取り合い、仲間になれたんです。すごく綺麗で、すごく楽しかった。

―― 「 楽しかった」・・・って、過去形なんですね?

折山さん:はい。コロナ禍が収束して、経済が回るようになったころ、「私が会社として続けてもいい結果が出ない」っていうのがわかった。なので、「解散しよう」と。「好きな店舗をお渡しします」と伝えて、続けたい人たちで運営するかたちにしてもらったんです。

齋藤さん:いつも本当に思うけど、折山さんってやるべきことをやったら、さっと撤退しますよね。畳み方も綺麗。物事って畳む方が大変だし、終わるってネガティブにとらえがち。でも、成長や拡大だけが正解とは限らないんですよね。

折山さん:そう、やってみないとわからないんですよ。私、やらない理由を探すのは苦手だから、すぐやっちゃう。やってからすぐ見極めて、違うと思ったらやめてみる、という。若い人のなかには、やめたくてもやめられない人がいるけど、私が前を走ってそういう背中を見せたいってのもあるかな。

齋藤さん:そうそう。50代だからこそ、担える役割がありますよね。今、いろいろな人が素晴らしい活動をしているけど、ボランティアで終わらせず、もっと広げていくことが大切だと思っていて。だから、年配の方と若い世代をつなぎ、いろんな力を持ち寄れたらいいなと、今まさに模索しているところです。

折山さん:そうね。私は基本的に若い人たちとしか協働していないんですよ。ある程度の年齢になれば経験もお金もあるし、やりたい人はやればいい。一方で、私は若い人たちが「土」に興味を持ったり、何かのヒントを見つけたりするきっかけになればいいなと思って、一緒にやっているんです。

―― 若い人たちとは具体的にどんな活動をされているんですか?

折山さん:例えば若手の建築家と古民家のプロジェクトを一緒に進めることもありますし、小学校で「土」の話をすることもあります。子どもたちは本当に感度が高くて、質問がどんどん出てくるし、レポートも「全然足りません!」って何枚も書いてくる。そんな姿を見ると、ああ、ちゃんと響いたんだなって実感しますね。

大学生もそう。私と話しているうちに、「僕もこういう問題について本気で考えている」とか、「こんなことをやりたいんだ」って、自分の思いをぶつけてくれる子がいる。その熱量に触れるたびに、「共鳴するからこそ、ここまで話せるんだな」と感じます。響き合わなかったら、そもそも話そうとはしない。特に今の若い子たちは、普段あまり多くを語らないからこそ、そういう瞬間にグッとくるものがありますね。

――  最後に、折山さんの今後の野望について教えてください。

折山さん:私、山の中ですべてのライフラインを完結する場所を作りたいんです。リトリートもできて、食も学べる。そして何よりもその場所は、私が死んだ後、土に還るようにしたい。だから、土に還る素材しか一切使わないでおこうと思って。

齋藤さん:それ、絶対にやり切った方が良いですよ。昔は当たり前にできていたんだから、きっと現代でもできるはず。

折山さん:どこまでストイックに追求できるか、それが勝負ですよね。これこそ日本の力を示すチャンスですよ。そして、もし私が描いている構想が本当にかたちになったら、「できる」って証明にもなる。そうすれば、他の人も真似ができるはずなんです。

――  真似ができるっていうところまで見据えているんですね。

折山さん:そう、全部オープンです!もう50歳過ぎているので、残された時間を最大限活かしたいと思って。

齋藤さん:なら、私はその場所に海外からたくさんの人が来るように頑張ります!

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