イイムロがいく おしかけ職場探訪Vol.3 [松嶌圭子さん最終話]
こんなことで誰かを頼っていいのかしら? 周りはどう思っているのかな? 気になりだすと自分の好きなことにどんどん焦点が合わなくなってきます。ではいったい、ひとりでお店を始めるにはどうしたらいいんでしょう。 勤め人の傍ら、週末に「手作り布小物のお店 みちくさ研究所」を営む圭子さんにゆっくりじっくりとお話しをうかがいました。Biotope紙面では紹介しきれなかったロングインタビュー、Web版として全3回に分けて公開です。
松嶌圭子
長野市出身。平日は勤め人、その傍ら2018年7月に長野市岩石町にて、週末のみ開店する手作り布小物のお店 みちくさ研究所を開業し、自身の作品を取り扱う。シンプルなデザインのなかにかわいらしさの見え隠れした小物は女性のみならず男性にも定評。
第3話:『誰かのためではなく、自分の好きなように』
飯室(以下、飯):平日はお勤めして週末は自営業、こういう選択もアリですね。
圭子(以下、圭):私の場合、大前提として圧倒的に周りの応援のおかげです。思い返してみても、ひとりでやろうと思ってできたことなんてひとつもない。家族が生活面を支えてくれて、モチコちゃんがここでやればって誘ってくれて。それらがなかったら今もくすぶっていたと思います。
飯:周りの応援のおかげということですが、自分の弱いところを見せたり、誰かに頼ったり、助けを求めたりするのって、難しくないですか?
圭:私も言えなかったんです。誰にも迷惑かけないでひとりで全部やろうって思ってた時期もあります。あと、ひとのためにって思っていた節もありました。例えば、親はきっとこう思っているから、親のためにこうしないと、とか。その頃は本当に何もできなかった。
飯:自分で自分をがんじがらめにする、これは他人事でない感じあります。
圭:でもあるとき、自分ひとりでは何もできないって認めてみたんです。そうしたら人に頼れるようになりました。自分が心配していたほど、周りは頼られることを嫌だと思っていなかったんですよね。そして、親は子供が好きなように生きているのが一番いいんだよって友達に言われ、そっちでも肩の荷が降りた気分になりました。
飯:誰かに頼られると嬉しかったりします。あぁ、自分は必要とされているんだ、って。
圭:そう。だから自分は好きなようにやって、できないことは誰かに頼る。頼ることが多くても、それは巡り巡って相手にプラスに作用していくかもしれない。
飯:なるほど。好きなようにやってみるというのは意外とできていないかもしれません。若い頃に、そういうことを言ってくれる大人が周りにいるといいですね。
圭:学校を卒業したら就職しないといけない、そう思っている人が多いですが、人それぞれですよね。私も最近ようやく自分のこれからの方向性がわかってきたくらいだから。ここはシェアハウスで学生さんたちもいるので、そういう話もします。大学行ったからこうしないといけないっていうのはない。いろんな人と話して道を模索できればいい。
飯:みちくさ研究所のこれからの展開など何か考えていらっしゃいますか?
圭:以前から考えていることなんですが、着物など古布をリメイクした商品も作ってゆきたいんです。というのも、商品を作るために新たに布を購入することにちょっとだけ葛藤があって。
飯:葛藤ですか。
圭:例えば、このブックカバーは大福屋の2階から出てきた着物の生地をリメイクして作りました。世の中にはこうして眠っている良い着物がたくさんあります。それをかわいくリメイクして、普段の生活でも使えるものを作りたい。そんな構想はあります。
飯:話が少しそれますが、1166バックパッカーズには建築を勉強している学生さんもよく来られます。この数年で感じるのが、新しくビルや公共施設を建てることよりも、今ある建物をどう利活用してゆくかに興味がある方が多いんです。門前にはこうして古い民家をリノベーションしたお店も多いですし、良き事例が集まっているんですよね。圭子さんのリメイクに対する思いと考え方が似ているように思いました。技術を持ったひとが古いものを大切に繋いで行ければいいですね。
圭:この間、通りすがりのおばあちゃんが家庭用の織り機をくださいました。織物が好きでこれまで作ってきたけれど、もう使わなくなった、と。みち研の雰囲気や色合いを気に入ってくださり、こういう感性で何か作ってくれると嬉しい、とおっしゃって。そういう受け継いだものも使って、裂織りも取り入れてゆきたいです。私は割と牛歩ですが、楽しみながらやってゆきたい。
飯:精神的に心地よい量と内容で仕事を続けるにはどうしたらいいと圭子さんは思いますか?
圭:まず自分を知ることが大事なのではないでしょうか。自分はどう生活するのが一番心地良いか、それを考えながら暮らしてゆきたいですね。
飯:圭子さん、今日はありがとうございました。
(おしまい)
1166バックパッカーズ
飯室 織絵
兵庫県出身。2010年に長野市にてゲストハウス・1166バックパッカーズ開業。ガイドブックの情報ではものたりない旅人と地元のひとを緩やかに繋ぐパイプ役を目指す。日々旅人の話を聞かせてもらうなかで聞き・書きにも興味を持つ。